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  天使がふたり

読売の「鎖肛」の記事

術後ケアが重要な「鎖肛」


手術後の子どもに超音波検査を行う北河徳彦さん(左)(神奈川県立こども医療センターで) 「お母さん、出たよ」。寝る前に浣腸(かんちょう)をした神奈川県の小学1年男児B君(6)がトイレから叫ぶ。「ようやくここまできた」と母親(37)は胸をなでおろした。普通の排便を目指した努力は、生まれ落ちたその時から始まっていた。

 「鎖肛(さこう)の可能性があります」。聞き慣れないこの病名を告げられたのは、妊娠9か月の時、産院で受けた超音波検査でのことだ。生まれつき肛門が閉じている――。

 先天的な新生児の病気には、食道や十二指腸、大腸などの消化管が閉じているものがある。鎖肛は直腸、肛門が閉鎖している状態で、5000人に1人の割合で起こる。

 出産予定日の1か月前に小児外科の専門医がいる神奈川県立こども医療センター(横浜市)に入院。1999年11月に生まれた。やはり鎖肛と確定し、すぐにNICU(新生児集中治療室)に運ばれた。

 生後3日目、便を排出させるための人工肛門が作られた。いったん退院。手術に耐えられる体力がついた生後7か月の時に、直腸を引っぱって肛門に縫いつけて、肛門の形を整えた。

 ここからが、本格的な闘病の始まりだ。

 引っぱってきた腸は動きが悪く、すぐに便秘を起こす。母親が起床後と就寝前に浣腸をして、排便させる。どうしても便の出が悪いので、母親は毎度、1時間以上もおなかをさすった。

 排便が不十分なため、2歳の時から、月に1、2回、センターの外来で、生理食塩水で腸を洗う「洗腸」を受けた。すると、ソフトボールほどの量の大便が出てきた。

 頑張り屋のB君。3歳の時、1歳半違いの弟に、「病気で生まれなくて良かったね」と語りかけている姿を見て母親は涙した。4歳になっても、5歳になっても、この状態が続いた。

 主治医で小児外科医の北河徳彦(のりひこ)さんは昨年8月、改善を目指し、大腸の動きが悪い部分を切除した。これが奏功し、退院後、自宅で浣腸したところ、見事に出た。母子ともに「やった!」と喜んだ。

 今、浣腸は量を減らし、就寝前の1回だけになった。サッカー選手になるのが夢。地域のチームに参加し、土曜日は3時間近く汗を流す。10歳までに患者の7割は浣腸の必要がなくなるが、社会人になっても必要な人もいる。

 センター所長の大浜用克(ようかつ)さんは「1回の手術で完治しなくても、対処法を工夫することで、普通に暮らせます。経験豊富な専門施設で相談してほしい」と話している。

 小児外科 小児外科の手術のうち、特に難度が高い1歳未満の乳児の鎖肛、食道閉鎖症、胆道閉鎖症など、11項目の手術の年間実施件数を、社会保険事務局に届け、院内掲示することが保険診療の条件になっている。こうした手術は、全国約30の子ども病院に集中する傾向が見られる。

(2006年6月6日 読売新聞)


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